週末ソプラノ歌手-北村美緒さん

週末ソプラノ歌手-北村美緒さん

自分のやりたい音楽を目指すために週末起業

本業のメディアプランニングをこなしながら、マーケティング戦略、営業戦略を学び自分の考える音楽を目指す。
音楽大学を卒業後「自分の本当にやりたい音楽を追求したい」という思いに駆られ、音楽家の道に進まず、サラリーマンへ転身した北村美緒さん。4年のブランクを経て、「週末ソプラノ歌手」として週末起業をスタートしました。一端、離れていた歌の道をまた歩み始めたのはどういう理由があったのか? まずは週末起業を始めた経緯からお伺いしました。

  • 北村美緒さん
  • 週末起業開業:2006年頃
  • 週末ソプラノ歌手
  • 年商約100万円
  • 初期投資なし(留学費用等は除く)
まず週末起業を始めたきっかけを教えてください
「自分の考える音楽を実践したい」という思いがきっかけです。実は音楽大学まで行って、音楽の道とはまったく関係がないサラリーマンになったのは「歌以外の世界ものぞいてみたい」という好奇心からでした。大学在学中は、自分が目指している方向性とは違う歌を歌わされることが多く、何のために歌を歌っているのか悩む日々が続きました。そこで「ちょっと歌を止めてみよう」「ほかの歌を歌ってみよう」という思いが強くなっていきました。また、パソコンを使って普通にサラリーマンになってみたら、音楽世界以外の人間関係も構築できるだろうと考えたのです。

そこで音楽学校を首席で卒業した後、4年間ぐらい歌を止めて大手広告代理店でメディアプランニングをやっていました。その後、主人の勧めもあり、ウィーンのモーツアルト音楽院に短期留学。現地での評価も高く自分に自信がつき、自分の音楽を目指すことができそうだと思えたところで、サロンやレセプションなどで、プロのソプラノ歌手として活動をスタートしました。現在は1時間6~8万円ぐらいの報酬+ご祝儀で活動を続けています。ソプラノ歌手を本業とすることもできるのですが、いまは敢えて活動を年5~6回程度に控えています。

それはなぜですか?
今は、自分が勉強不足なので、満足できるまで音楽を追求したところで、本格的に事業をスタートしようと考えているからです。海外留学して日本のクラシック音楽はまだまだ発展途上であることが理解できました。それは絶対音感に関する考え方ひとつとってもよくわかります。皆さんご存じのとおり、絶対音感はその人の音楽の才能を表す指標のようになっています。絶対音感がある人は音楽の才能があり、ない人は才能がない。でもそれは間違っていることに気がつきました。

たとえば、絶対音感でラの音は440Hzなんですが、留学先では、今日は443Hzで練習してみようということもあるのです。そうして歌うととても華やかな感じでよいのですが、日本ではそういうことは認めないでしょう。教わったことと違いますから。そういうことに違和感を感じたので、週末起業という形をとって自分の考える少しずつ音楽を追求していきたいと思ったのです。

週末ソプラノでのコンサートは年間どのくらいあるんですか?
大小あわせて年に5~6回ぐらいコンサートを行っています。集客から会場設営、演奏まですべてやるときもありますし、お任せしてしまうこともあります。やはり週末ソプラノで歌う場合は、レセプションで歌を歌って欲しいといわれるニーズが一番多いですね。たとえば、何かのパーティでサロンで歌うとかテレビ局のレセプションで歌うなどです。そうしたイベントのスポット的な出演は、とてもラクですよね。行って歌えば、いいだけなので(笑)。日本はサロンを持っている人はなかなかいないので、もっと気軽にできるようにしたいです。海外では、お城を持っている人やサロンを持っている人も多いのでそういった場所でのコンサートもあります。

自分で主催するコンサートの場合、どういったことに気をつけているんですか?
自分で行うコンサートの場合、コンサートの企画から、会場の選定、ポスターや案内チラシの制作、チケットの販売まで行っています。自分のやりたい音楽を追求するためには、とことんこだわっています(笑)。

海外に留学して思ったのが、五感でコンサートを楽しんでいる習慣があるということ。日本はそういう習慣があまりないみたいですね。だから、公民館みたいなところでコンサートをやったり、ワープロ書きで経歴だけがつらつらと書かれているチラシを作ったり、お客さんに興味を持ってもらおう、楽しんでもらおうという気持ちがあまりない。だから、私はそういうことは絶対止めようと思いました。そのようなコンサートでは、お客さんの立場で考えれば、お付き合いで一度は行くけれども、二度と行きたくないという気持ちになってしまう可能性があると考えたわけです。

そういう思いをお客さんにさせてしまうのではなく、五感で楽しんでもらおうときちんとイベントプランニングをして開催しています。たとえば、プロのカメラマンや広告デザイナーを起用して、パンフレットを作成していますし、開催時間についても午後なるべく早い時間に始まり、その後、お茶会も催して余韻に浸れるようなコンサートにしています。会場も公民館のような場所ではなくて、建物として雰囲気のよいところを選んでいます。演奏会を五感で楽しんでもらう、つまり、ある意味エステにいったり、美容室に行ったりした後のような感覚を大切にしてもらいたいと考えています。

コンサートによく行かれる方は、毎月何十通ものDMやメールを受け取っているはずですから、音楽をただ聴きに行くだけではなくて、優雅な時間や空間を体験するイベントにすることで同業他社と差別化しています。こうした考え方は広告業界でマーケティングを体験したというのも非常に大きいと思います。

サラリーマンで得たノウハウとはどんなものですか?
前職は証券会社、現在は広告代理店で独立開業支援のメディア事業に携わっています。クライアントに向けて、集客やマーケティング、経営でお手伝いをさせていただくので、そこで覚えたことを自分の事業にも積極的に取り入れています。たとえば、私のコンサートの新規顧客へのアプローチは、mixiなどでも行っています。「バッハ」や「レトロ」「大正ロマン」「高級時計」などの単語にヒットするコミュニティへ絞り込んでアプローチをかけています。チラシ、会場、プログラムはターゲットとしている顧客層向きに作ってありますので、指向にあったお客様が友人を連れて次々に来てくれる、というわけです。競合他社と競争しないブルーオーシャン戦略を狙っているというわけです。

週末起業を続けるのには、限られた資源である時間をどう効率的に使うかが問題です。工夫していることは何ですか?
本業は朝の9時から夜の7時頃まであり、忙しいときは徹夜もあります。その合間で子育てもしなくてはいけないので、常に時間不足の状況です。そこで導入したのがフランクリン・コヴィーの手帳です。ご存じの方も多いと思いますが、時間を有効に使う際に重要なのは、自分の価値観をまず明確にすることです。そこから自分の人生で何が優先なのかを決め、何年後までに何をやりたいかを考えたうえで、1年間、半年、1カ月、1週間、1日のスケジュールに落とし込みます。サラリーマンだと周りの都合で振り回されることが多いと思いますが、自分の価値観がしっかりしていれば、自分に本当に必要なことなのか、そうでないことなのかを分けて考えることができます。自分に必要がないことであれば、きちんと断ることもできます。1カ月のスケジュールには、やることは書かずにミーティングのみを記入。仕事のときは黒、社外の方と会うときは赤と予定を入れています。こうするとパッと見ると赤が多いな、黒が多いなでわかります。これでプライベートと仕事のバランスを見ているのです。

今後の展開について教えてください
黒字事業としてのサラリーマンのお給料を元に、週末起業という新規事業を少しずつ拡大レベルを上げつつ「ソプラノ北村美緒」というブランディングを構築していければと思います。仕事と時間や密度のバランスを見ながら両立できたらと考えています。