工業デザイナー-木全賢さん

工業デザイナー-木全賢さん

自分の豊富な知識を元に週末起業

週末起業家成功事例

まず、工業デザイナーとは何をするお仕事なんでしょうか? 教えてください。
工業デザイナーとは、工業製品のデザインを担当するデザイナーのことです。ちなみに、工業製品とは、民芸品などの手作り品と違い、工場で大量生産される製品で、パソコン、家庭電化製品、生活雑貨、自動車、バイク、家(プレハブ住宅)など私たちの身の回りのものはほとんどが工業製品です。現代の日本ではそれらの工業製品のほぼすべてが工業デザイナーによってデザインされています。

私が工業デザイナーになったきっかけは、小さな頃から図画工作が得意で大好きだったということです。もともと理工系の大学でエンジンなど内燃機関の勉強をしていたのですが、技術者よりもデザイナーになりたいという想いが強くなり、デザイン専門学校に通いなおし、運よく家電メーカーのシャープにデザイナーとして就職することができました。

その後、さまざまなデザイン事務所を渡り歩き、企業のCIデザインから、テープライター「テプラ」のトータルデザイン開発まで、さまざまなデザインを経験してまいりました。また、国を跨ぎ、日本だけでなく韓国や中国のデザインや生産の現場も体験しました。

週末起業を始めたきっかけはなんですか?
デザイナーとして、工業デザインに携わる仕事だけでなく、工業デザインの面白さ、素晴らしさを世の中に伝える仕事をしたいと思ったのがきっかけでした。幸い、文章を書くことは得意なほうでしたので、これまでの知識を生かして何かできないかと常に考えていたのです。

その頃、1999年に専門家がガイドする総合情報サイト「オールアバウト」がアメリカで一大ブームになっているという噂を聞きつけました。私は、ネットなどでオールアバウトのシステムを調べ、日本でも絶対に流行ると確信しました。そこで日本に上陸したあかつきには、必ずガイド役になろうと考えていたのです。

日本でサービスが展開された当初は、まだ敷居も低く、さまざまなカテゴリの専門家が選出されました。私も念願かなって、2000年11月から2002年6月まで「オールアバウトジャパン」の「インダストリアルデザイン」のガイド役を務めさせていただきました。

週末起業の売上は順調に伸びていったのでしょうか?
オールアバウトジャパンでのガイド役の仕事は、私が注目する新しい工業製品紹介と、工業デザインに関する薀蓄の紹介を中心に毎週内容を更新し、メルマガを発行することでした。 原稿の作成は、毎週月曜日を締切りにしていましたので、木金で構想を練って、土日を利用して原稿を書いていました。内容更新とメルマガ発行で毎月約6万円の収入になりました(現在はもっと少ないと聞いています)。

しかし、実際にオールアバウトのガイド役を務めて、改めて専門情報を発信することの難しさを知りました。ただ単純に自分の専門知識を発信しても、最終的になんらかのカタチで、他人が欲している情報でない限り、相手からの反応が悪くなります。

当たり前のことなのですが、工業デザインに対する思い入れが強すぎて、大切なことを忘れてしまったようです。アクセス数がなかなか伸びず、次の一手が打てないうちに、残念ながらガイドは打ち切りとなってしまいました。

その失敗を生かして、どういう展開を考えたのでしょうか?
オールアバウトでの失敗は、「ターゲット層を絞りきれなかったこと」「情報発信の切り口を考えなかったこと」という2点に問題がありました。そこで、今度はまず、ターゲット層を絞り、そこから情報発信の切り口を考えるようにしました。

具体的には、ターゲットは、工業デザインを用いて自社製品を開発したいと考えている中小メーカー。情報発信の切り口は、デザインとは何か? デザイナーに外注する際のチェックポイント、トラブル回避の方法などの相談を引き受ける工業デザインコンサルタントです。

まず始めたことは、ブログを書くことでした。ブログは2005年の9月末に週末起業として「中小企業の工業デザイン相談室」という名で書き始めました。当初、更新日は毎週水曜と金曜。

水曜のほうは「週刊デザイン相談室」と題してデザイナーとの付き合い方を中心に書き、金曜のほうは、「デザインのコツ・デザインのツボ100連発」と題し、工業デザインのノウハウの気軽な読み物として書いていました。

現在では週1回の更新になっています。残念ながらブログでは集客は見込めませんでしたが、自分を見つめ直すいい機会となりました。2006年の5月末に独立・開業して、現在では中小企業の顧問デザイナー業と工業デザインの講師業の2本柱でビジネスを展開しています。

講師業は、以前から付き合いがあった先輩デザイナーから紹介してもらった仕事ですが、仕事をするたびに、自分の知識や経験が他人の役に立っていると実感する毎日です。

中小企業がそんなに工業デザインに興味を持っているのでしょうか?
中小メーカーが売上に対して非常に大きな危機感を抱いている、ということだと思います。大手からの下請け業務は中国の台頭で頭打ちになり、多くの中小企業が廃業していきました。今頑張っている中小メーカーは中国にない本当の技術力を持っているところばかりです。

彼らには、生き残りをかけ自分たちの技術力を活かして、まったく新しい市場を開拓したいという意気込みが感じられます。しかし、中小メーカーのウィークポイントは工業デザイナーを雇うほどの余裕はないということです。

私が以前いたシャープをはじめとする大手メーカーでは、年間数百機種の新製品を開発するために、デザイナーを常時抱えることができます。しかし、中小メーカーでは新製品の開発は年に1~2回あるかないかが実情です。そんな実情ではデザイナーを雇いたくても、雇う余裕はありません。

それでも「自社の技術力を活かすデザイン力が欲しい」と新たな市場開拓に向けて、自社のデザイン力を見直す中小メーカーが増えてきました。このようなニーズに工業デザインコンサルタントとして携わっています。

現在は、東京都中小企業振興公社主催の「ものづくりデザイン道場」に、講師として定期的にかかわっています。このセミナーは、最終的には自らデザインできるようなノウハウを伝授するというコンセプトで開催されていますが、中小のメーカーの社長が自ら参加されて、熱心に授業を受講されています。

さらに、著書も出されたとか?
ええ。週末起業フォーラムでの出版企画コンテストに応募したのが出版の直接のきっかけとなりました。企画がうまく通り、おかげさまで『デザインにひそむ<美しさ>の法則』がソフトバンク新書から12月16日に発刊されました。

スケジュールが厳しく毎日原稿用紙10枚以上のノルマを課した執筆作業が続き、疲れきってしまい一時は、もう出版できないのでは? などと思ったりして、非常に大変な作業でしたが、なんとか出版にこぎつけました。

内容は、日常生活から切っても切れない工業デザインの面白さを紹介したものです。工業デザインが美しいのには理由があるわけですが、その理由を工業デザイナーの視点からわかりやすく紹介しています。出版をしたことで、工業デザインコンサルタントとしての信頼度や知名度が格段にUPしました。

今後の展開は?
工業デザインコンサルタントのビジネスをさらに展開していきたいと考えております。自著も出せたことで、講師業の話が各方面から舞い込んでいる状態です。今後も情報発信を積極的に行い、さらに知名度を上げていきたいと考えております。

週末起業家に対して何かアドバイスを
まず、自分がどの層に向けて情報発信をするのかというのをまず決めることが大切ですね。そして、最後は人脈がものをいうと思います。私は幸いにも、情報を発信すべきターゲットを誰(中小メーカー)にしたらいいかというアドバイスを、古くから親しくさせていただいている大先輩のデザイナーからいただくことができました。

また、初めての講師の仕事も別の先輩から紹介していただきました。ネットや雑誌に載っているような情報よりも、本当にお金が入ってくる情報や仕事は、私は人脈から得られるのだと思います。人脈を重視することで売上を上げるヒントが得られるのではないかと思っています。